VIPインタビュー:北浦和サッカー少年団 吉野弘一監督 吉川政男団長
北浦和少年団出身の矢島慎也が、敵地・札幌ドームでJリーグデビューを飾ったちょうどその頃、ホーム浦和では同団の吉川政男団長(68歳)が行きつけの店で深いため息をついていた。「ヤジ(矢島の愛称)のデビューは心強いけれど、直輝は長期離脱ですか……。ううーむ、これでロンドンは間に合わなくなってしまったわけですねぇ」。Jリーグ開幕の一喜一憂が続くホーム浦和で、若いふたつの才能をレッズに送り込んだ名門少年団の幹部コンビに想いを訊いた。(浦和フットボール通信編集部)
吉野弘一(よしの・ひろかず) プロフィール
1955年、旧浦和市北浦和生まれ。北浦和サッカー少年団でサッカーに出会い、浦和南高校在学中は地元クラブ「浦和キッカーズ」でプレー。卒業後に北浦和サッカー少年団監督に就任する。指導者として全国大会出場5回。優勝1回、3位3回。ブラジル、アルゼンチンでの指導歴、研修歴多数。現在、自身主宰の「ブガルサッカースクール」を軸に全国の子どもたちのサッカー指導に当たる。
吉川政男(きっかわ・まさお) プロフィール
1944年、東京都北区生まれ。浦和白幡中学でサッカーと出会う。41年間にわたる社会保障業務のかたわらで父母会会長などの役職を務め、79年より北浦和少年団に関わる活動を始める。高校時代の同級生である好子夫人との間に4児あり。長男がコーチを務め、孫も選手として所属するなど、家族ぐるみで同団を盛り立てている。
浦和フットボール(以下UF):先日のナビスコ杯ベガルタ仙台戦。矢島慎也君がJ公式戦デビューを果たし、果敢なシュートを放つなど思い切ったプレーを見せてくれました。どんな印象で初舞台をご覧になりましたか?
吉野弘一(以下吉野):シュートチャンスは彼本来のプレー特性が出せていました。どんな局面でもスピーディにボールを支配化に置き、パスやシュートのタイミングを測れるところが持ち味ですから。
UF:柏木選手からのサイドチェンジを受けて、遠目とはいえ素早くシュートコースを作ってトライする場面がありました。ゴールに向かう姿勢をワンタッチで作れるコントロールは彼ならではの攻撃センスと感じました。
吉野:逆に言えば小さい頃からそういう部分だけで勝負できて来た子なんですよ。特にスピードがあるわけでもないし、直輝のように動きの量や質に見どころがあるわけでもない。ただボールコントロールが突出しているだけに、厳しいスペースでも非常に高い確率で点にからめる才能を持っている選手でした。
UF:一見して分かります。同じミッドフィールダーでも先輩の山田直輝選手とは“異質”なタレント。FC浦和を全国優勝に導いた町田隆治監督(別所少年団コーチ)も、「北浦和少年団からは年ごとに本当にいろんなタイプの才能が出てくる。感心します」と言われていましたが……。
吉野:あれこれ言わずに好きなようにやらせるチームだからじゃないでしょうかね(笑)。まあ、僕自身も本質的に自由な雰囲気で楽しいサッカーをやるのが好きなので。
UF:山田直輝選手は「北浦和は生活面の指導がすごく厳しかった」とコメントしていますが、監督ご自身はあまり形にはまった“優等生タイプ”を育てる指導者ではない?
吉野:アタックのセンスを持った子が育つ傾向はあるようには思えます。僕の現役時代の頃から、浦和はディフェンスの選手が台頭するケースが多かったように思いますが……。
UF:ですよね。浦和レッズの時代に入った後も、地元出身の主力プレーヤーとして思い浮かぶのは室井市衛、内舘秀樹、堀之内聖といった選手たちです。
吉野:そうですね。昔からURAWAはチームプレーの中で、頭脳的に戦うチームが多かったはずですから。ウチみたいに中盤の選手が次々と台頭するのは特殊かもしれない。まあ、技術のある選手は早くからそのポジションに置くことはやっているので、その影響もあるかもしれません。
UF:直輝選手にも心強い後輩の出現と思いますが、これからの矢島君に要望したいポイントや改善点はありますか?
吉野:とりあえずインタビューを何とかしろ、と……(笑)。無理もないけど、もう少しメディアでのコメントや対応を考えなくてはと思います。プロなんです。ファンに見られる立場なのですから。
UF:プレー的には?
吉野:プレーでは自分の長所を思い切り発揮してくれれば良いと思ってます。後はメンタルですね。戦う意識とか強さなどは、まだまだ直輝には遠く及ばない。このあたりはトップでの経験を積んで厳しさを知って行くしか方法はないのでしょうが。
UF:その直輝選手なのですが……。吉川団長、何とも残念な負傷離脱です。
吉川:本当にねえ。ちょうどあのベガルタ戦の前、柏レイソルに勝った直後だったかな。久しぶりに遊びに来てくれたので、良い気晴らしをしてもらって送り出せたと思った直後だっただけに……。まあ、地元から送り出している身としては、彼らの怪我やコンディションは本当に気になります。
UF:先のインタビューでも直輝君が言っていましたが、URAWAの少年団の存在はプロに成長した後も、OB選手たちの心の支えであって欲しいと思います。
吉川:団の正月恒例の「初蹴り」を今年も1月8日に開催したのですけれどね、直輝もヤジも忙しい中に参加してくれまして(笑)。選手ともども我々も嬉しいものですよ、それは。
UF:豪華な競演でしたね、それは。
吉川:他のOBたちも含め、メンバーたちがみんな張り切ってしまってね。なかなか二人に回さない(笑)。ヤジも直輝もボールが触れないんです。また北小の校庭でね、皆で楽しくボールを追いかけたいですよ。
≪2012年3月 北浦和にて≫
Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu