浦和フットボール通信

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【This Week】週刊フットボールトーク拡大版 Vol.88(5/18)

新潟戦、ナビ川崎戦とマンチェスター優勝争いからフットボールクラブの魅力づくりを考える。

椛沢佑一(浦和フットボール通信編集長)× 豊田充穂 (コピーライター)

椛沢:先週末は、ホーム埼玉スタジアムで、アルビレックス新潟戦でした。引いた相手に対してどう崩すかがテーマになるであろうという話をしましたが、まさにその課題を突きつけられた試合となりました。前半早々にマルシオが先制点を決めて、良い試合の入り方をしましたが、点を奪った後に受け身に回ってしまう姿勢はこれまでも課題としてありましたが、この試合でもその展開になった。相手にペースを奪われてスローインからのリスタートから、また失点をしてしまいました。この失点パターンも継続的な課題の部分です。同点に追いつかれたことで、引き分けでも良しとする新潟がラインをしっかり引き、レッズは勝ち越し点を奪うことが出来ずに引き分けに終わってしまいました。

豊田:ワントップとして先鋒を任された原口の逸機が残念でした。特にゲームへの入りに成功して先制した後の22分、右サイドでマルシオ・リシャルデスとのワンツーから抜け出してサイドネットに当ててしまった場面。あれはトレーニング段階から想定していたコンビネーションだったろうに残念ですね。決めていればゲームの流れは一気に決していた可能性がある。66分、78分にもそれぞれ今季のレッズには見られなかった展開から元気にビッグチャンスが訪れたのですが……。彼のワントップは膠着を打破するためのミシャ監督が描いた「引き出し」のひとつのはず。元気ばかりでなく、こういう戦術選択のチョイスを成果に結びつける強さと意志を全員で共有していかないと上位争いに勝ち残るのは厳しいと思います。

椛沢:勝利を求めるスタジアムの雰囲気とは裏腹に終盤はシュートを打つことも出来ずに、後味の悪い引き分けとなってしまいました。

豊田:ハーフタイム時点で当面の視界に入る上位のうち、広島が横浜に敗れて清水はセレッソ大阪にリードされていた。客席は期待が広がる情況だったのですが……。70分あたりに波状攻撃で新潟を押し込む場面がありましたが、この時点以降はショートカウンターのチャンスを取っても浦和はゴール前の枚数が足りなくなっていた。柏木と槙野が献身的な動きとムードメイクで勝ち越しの気運を盛り上げていましたが、どんな時も自軍を停滞させないリーダーシップとか、ミシャが言うところの「トライするプレー」が出せなければこういう展開の打開は今後も苦しくなるでしょう。

椛沢:ホームで見せる姿勢としても、あまり良くないものだったと思います。ようやく晴れたホームゲームでも31,818人しか来場がないということも、これからどう魅力を創り上げていかなければいけないのか、考えなければいけない試合となったのではないでしょうか。

豊田:先日、長年シーズンチケットの保持を続けているサポーター仲間と話したのですが、最近は「レッズ戦、行ってみたいのですが?」というリクエストが死語になってしまった感があります。彼も自営業で社員用に複数席を確保してあるが、そこを確実に埋めるアタマ数が減ってきてしまったと……。私も事務所用の席を持っているのですが、私とスタッフ以外のファンに入場券をプレゼントする機会がめっきり減りましたね(苦笑)。彼も言っていましたが、レッズへの愛着や知人に観戦機会を持って欲しいという願いがあるからシーチケは手放せない。でもその保有席数さえ埋まらないくらいに需要が低下して来ている……非常に残念なのですが、そういう情況は指定席エリアでは確かに見られるようです。

椛沢:観客動員数の減少は抑えが効かない状況ですね。豊田さんの話の通り、人が人を呼ぶというところで、サポーターがレッズの魅力を伝え、そして伝播していくことでの拡がりがあったと思いますが、これが近年はなくなってしまっているのだと思います。もちろんこれに応えるクラブの頑張りが必須ですが、我々サポーターもレッズの魅力作りに関わると共に、魅力を伝えていくこともしないといけないのだと思います。スタンドが空く試合は増えていますが、少数精鋭になったがための雰囲気の良さ、一体感が逆にあったりもします。その魅力をさらに持ち上げていきたいですね。
さて、第2回の浦和タウンミーティングでもこの辺りの集客に関する話題も出ましたが、浦和レッズというクラブだけの問題と考えずに、地域における存在としてクラブがどうこの街に在るべきなのかを考えて、どう存在価値を高めるかということが今後求められてくるのではないかと感じた会でした。

豊田:後日に特集も組みたいのですが、畑中事業本部長からは「クラブライセンス制度」に対する見解談話も出ていましたね。すなわち、根本的なJリーグ理念をどう捉えてレッズは「020」からのスタートを切るのか……。昨季の低迷時期にはクラブメッセージの場が公式ホームページだけになり、ひたすら「ご来場と応援をよろしく」とくり返すサイクルに陥った事態を考えれば、クラブとホーム浦和の双方が真剣に取り組まなければならないテーマと思います。

椛沢:クラブライセンスは、リーグ主導で各クラブの理念、経営、環境などについて向上させる狙いがあると思います。これによって苦しい状況になると考えるのではなく、これに最低限、対応が出来なければ今後のクラブ経営は厳しくなると捉えて、努力をする必要があると思います。Jリーグが開幕して20年が経ち、親会社におんぶに抱っこの経営は、通用していかなくなるでしょう。Jリーグの理念である「地域密着」の理念を真剣に考えていく時代が来るのではないでしょうか。

豊田:あるべきホームタウンとクラブの理想共有は、世界中のチームの重要課題になりつつあるようです。該当する例であるかは?ですが、先日に地元のマンチェスター・ユナイテッドとマンチェスター・シティが最終節までプレミア制覇を争ったマンチェスター在住のマーク・ラッセル氏(本誌『欧州通信』担当記者)からメールが来ました。両軍のどちらかが王座に着く最終節の5月13日は、様々な意味でスタジアムも街頭も盛り上がったそうです。
<編集部注:プレミアリーグ最終節(全試合同時キックオフ)に至るまで、リーグ3連覇を狙うユナイテッドとライバルのシティは同勝点。得失点差ではシティが8点リード。シティはホーム戦でQPRに勝てば自力優勝で、引き分け以下の場合は敵地でサンダーランドと対戦するユナイテッドの結果により優勝チームが決まるという情況だった>
以下が、その内容です。
「ドローではあのユナイテッドに勝点ポイントで及ばない。44年という気の遠くなるような屈辱払拭のチャンスが水の泡になる。見飽きた“仇敵の隣人”たちの嘲笑が、またしても目に浮かぶ。1-2でロスタイムを迎える状況は、マンチェスター・シティ支持者にとっては地獄だったろう。10人で残留争いを演じている羽目になったQPR(クイーンズパーク・レンジャース)に絵に描いたようなカウンターパンチの決勝点を叩き込まれ、ユナイテッドのプレミア三連覇の片棒を担がされるところだったのだから……。
94分に飛び出したアグエロのドリブルの決着シーンは熱を帯びたものだった。だが、何よりこの日に印象に残ったのはエティハド・スタジアムを埋めたリーグ制覇授賞式のスタンドの反応である。68年、すなわち44年前に栄冠を手にした老雄たちの入場には万雷のオベーションが沸きおこった。そしてその後ろには、各自の母国の国旗を背に巻きつけた若き2012シーズンの現役制覇メンバー。いったい幾つの国旗がプレミア王者のホームの芝生に拡がったのか。この光景を目にしていたシティ支持者の気持ちは、どのようなものだったろうか?」

椛沢:つまり本場イングランドのサッカー王国、マンチェスターの歴史を支えて来た両軍イレブンのインターナショナル化が完遂されている。そういう事実への問いかけですね。

豊田:ユナイテッドに続き、ライバルのシティも国際資本に左右されるクラブに完全に衣替えしてしまったことへの感慨……。そういうことだと思います。

椛沢:皆さんもご存知の通り、チェルシーの全盛期もそうでしたが、シティもオイルマネーによる大資本を投入して、大型補強を行なって現在の栄光があります。ビッククラブのユナイテッドに対抗して、地元志向のシティという立ち位置は今や昔になっていますね。しかし古くからのシティの伝統はマンUに対抗して地元才能の発掘にこだわり、ダービーの盛り上がりも演出する独特のクラブづくりだったと聞きますが?

豊田:イタリアからスコットランドの象徴だったデニス・ローを奪還し(当時のイングランドリーグ史上最高の移籍金でトリノFCから獲得)、北アイルランドのサッカー少年だったジョージ・ベストを連れてきてボビー・チャールトン主将と組ませ、緻密に欧州チャンピオンズ杯用のチーム作りを進めていたユナイテッド。それに比べればシティのクラブカラーは遥かに土着的であったことは間違いないでしょう。なんというか、当時から日本のファンにまで商業的アピールを届かせたマンUに比べて、自軍ゴール裏と結託して泥臭く闘うシティにはかなり個性的な色合いを感じました。B級タレントを育てる王道みたいな(笑)。マーク・ラッセルも言っていましたが、いまで言う“バンディエラ”の育成において44年前のシティはユナイテッドの上を行っていた。当時のキャプテンのトニー・ブックは28歳までマンチェスター在住のパートタイム・プロだった地元オヤジだし、栄冠直後の70年ワールドカップ代表に大抜擢されて王様ペレ率いるブラジル代表のゴールを脅かしたフランシス・リーは、近郊ボルトンを追い出されてマンチェスターにやって来るような“悪童”でした。シティのスタンドから見れば「トニーとフランシスの奴が、俺たちのシティのために走っているぜ!」、みたいな感じだったのでは? でも常にユナイテッドの対極に立場を置き、こういうコントラストを産み出していたシティの存在こそが、現在ではなかなかお目にかかれないディープなダービーを演出していたと言えるでしょうね。

椛沢:先日さいたまダービーが行われたわけですが、同じ街の双方クラブのそれぞれの努力が、お互いのクラブカラーを創り上げて、どちらがこの街で魅力的なのかをクラブの理念をかけて競い合う。そのことでお互いが磨き合いながら、ダービーという存在の価値も上がっていくのでしょうね。ダービーのことを考えてもフットボールの捉え方が見えてくると思います。水曜日には、ナビスコカップ予選の川崎戦がアウェイ等々力陸上競技場で行われました。このスタジアムはとにかく相性が良いスタジアムでほとんど負けた記憶がない。この試合も例に漏れず、3-0の快勝となりました。川崎は風間新監督に代わり、まだ4試合目ということで、しっかりポゼションをしてサッカーをするという経験値で、若干先輩の浦和に軍配が上がったという試合だったのかと思います。今後求められるバックアッパーの存在が誰なのかをこの試合で見極められるのもひとつのテーマかと思いましたが、徐々に力をつけている選手が見受けることもできて、収穫のある試合でした。そして今週末はエスパルス戦。サッカーの街・浦和としては、清水には負けてはいけない。この気概は忘れたくない街の背景です。埼スタで、王国清水の文字は見たくない。川崎戦で作った良い流れを活かして、好調エスパルスを打ち破る活躍を期待したいと思います。

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