【This Week】週刊フットボールトーク Vol.93(6/21)
ホームタウンにおけるレッズの存在位置。激闘・ガンバ大阪戦について
椛沢佑一(浦和フットボール通信編集長)× 豊田充穂 (コピーライター)
豊田:今週は私から口火を切らせてもらいましょう。というのも、先の編集長のタウンミーティングレポートで紹介された会場提供の越智田さん(カフェ『砂時計』マスター)のコメントに関し、周辺の反応がおさまりません。都内で会うマスコミ仲間も含め、ズバリ賛否がまっぷたつです。
椛沢:あの「ホームタウンにおけるレッズへの注目度に対して、誰もが手放しで応援をしているわけではない」という指摘に対する反応ですね。
豊田:そうそう。こういう実態に対して私たちレッズ支持者が「クラブの経緯を知らない」「チームの現状にそぐわない」というハードルを内輪で築いてしまいがちな現状も踏まえた論争です。知り合いの間でも熱心なサポーター同士がふた手に分かれて自論を戦わせますね。燻っていたとうか、なかなか机上に乗せにくい議題だったかも知れません。2012年において、ホーム浦和の将来を考える重要テーマではないのかと……。
椛沢:具体的にはどんな意見で述べられているのですか?
豊田:賛成派の主旨をまとめると、「越智田発言はレッズサポーター = ホームタウンではないことを市民に訴える貴重コメントであり、レッズの10年後を考える浦和フットボール通信として大切に扱って欲しい。もっと時間をかけて深く掘り下げるべきではないのか」 そんな感じ。発声している面々はファミリーを中心としたシーチケホルダーたちで、もちろん親子年代までが揃った構成です。こういう主張が出て来るのはURAWAにおいては珍しくないケースでしょうが、高校生くらいの男子から「スタジアムで選手動向やレッズの戦術論を周囲にぶっている人に限って、浦和のサッカー現状を分かっていない気がする」なんて言葉を平然と口にされると……(苦笑)。フットボール通信でこのような発言の場をいただいている私もタジタジという感じです。
椛沢:なるほど。
豊田:対する反対派の論は「もはやレッズは日本を代表するJクラブを目指すべき存在。ホームタウンの住人なら、まずは立場を超えてクラブを後押しし、URAWAの名を世に轟かせるために結束すべきなのではないのか。それはサポーターであろうとサッカーにあまり興味がない人でも、いまはその垣根を取り払うべき時なのでは?」という理論です。いかがですか、編集長。この賛否の色分けは非常に微妙な部分でしょう?
椛沢:越智田さんが言いたかったのは、誰もが浦和レッズが好きだという観点で全て話をスタートさせてしまうと見えなくなるものがあるということなんですね。街中でも“レッズが好きであれば何をしても許されるんだ”という姿勢で迷惑をかけているサポーターがいると。これでは街の人の賛同は得られないというわけです。レッズだけが特別な存在ではなくレッズも街のひとつであり、その中で持ちつ持たれつの関係がなければ、本当に街ごと応援されるクラブには成り得ないのではないかと思います。
豊田:この問題は難しく、私たち浦和レッズ支持者がどんなスタンスでクラブとホームタウンとの関係を見直すべきかというテーマに関わってきます。本誌やタウンミーティングで時間をかけて参加者や読者の方々の意見を拾いたいと思うので、ここでは象徴的なデータをひとつだけ取り上げましょう。ここに「スタジアム観戦者調査サマリーレポート」というJリーグ発行のデータ冊子があります。
椛沢:これは、Jのカンファレンスで配られていた資料ですね。Jリーグが調査した集計で、スタンドのファンの動向や意識変化が相当な詳細データをもとに再現されている貴重な冊子です。
豊田:注目すべきは巻頭いちばんに出てくる調査と思います。Jリーグのスタンドで集めた14000人前後のサッカーファン回答集計で、筆頭設問は「Jクラブは、それぞれのホームタウンで重要な役割を果たしているか?」という内容。浦和レッズ支持者の回答は2010年版で「大いにあてはまる」が37パーセントでJ1の18クラブ中14位。さらに翌年2011年版の同質問に答えた「大いにあてはまる」は32.7%にまで落ち込み、18クラブ中の最下位に転落しています。(リーグ平均は43%。トップはベガルタ仙台の67.1%。浦和は「あてはまる」までを含めた肯定的回答の総ポイントでも最下位)。Jリーグ随一といわれるサポーターが陣取り、一時は世のマスコミがこぞって「地域密着」を謳った私たちのスタンドが示したスコアなのですが……残念な結果と思います。
椛沢:この数字はクラブだけではなく、レッズに関わる全ての人が謙虚に受け止めなければならない数字ですね。今後もこのテーマについては、本誌やタウンミーティングに活かして行きたいと思います。さて、先週末の万博アウェイ戦の話題です。久しぶりの劇的な幕切れの勝利で終えた試合となりましたね。万博にはアウェイスタンドを赤く染める多くのサポーターが詰めかけてレッズを後押ししました。試合は、下位に沈み必死に向かってくるガンバに対して受け身の姿勢になったことで、決定的チャンスを数多く作り出される苦しい試合展開となりました。しかしGK加藤順大の素晴らしい守備により、失点を1に抑えたことで、流れを呼び込みました。押されっぱなしの中、唯一とも言えるチャンスで原口が同点ゴールを決めて追いつきます。
豊田:テレビ観戦でしたが、ホームでレッズを迎え撃ったガンバの気迫に押し込まれる展開。全員が動き出しで相手に遅れを取り、流れも掴めないまま負けパターンに引きずり込まれる気配でした。プロ野球解説の野村克也さんではないが、「勝ちに不思議の勝ちあり」を実感するゲーム。前半のCKからの先制点献上は、すでに何度も見せられた今季失点をVTR再生した感じ。現地参戦のサポーターのやるせない気持ちが溢れ出そうなシーンでした。前半終盤に佐藤晃大にヘディングで2点目を決められかかったが(右ポスト直撃)、あれが入っていたら厳しい展開になっていたことは間違いないでしょう。ただ、久方ぶりに交代出場した矢島慎也君がリズムを変える動きを見せたようですね。
椛沢:久しぶりにチャンスを与えられた矢島は意欲的なプレーを魅せてくれました。ルーキーの思い切ったプレーがレッズの勢いをつけたといっても過言ではないプレーぶりでした。そして、その後半は雨脚が強かったせいもあってかオープンな試合となりましたが、身体を張ってレッズの選手も対抗が出来るようになり、一進一退の展開となりました。試合終盤になるにつれて豪雨となりますが、レッズサポーターの声はボルテージを上げ、残り5分となった所でレッズサポーターが「PRIDE OF URAWA」が大合唱される中、選手達も奮起して、ロスタイムに梅崎が劇的な決勝ゴールを決めました。最後はゲリラ豪雨のごとく雨が降り続けて、ずぶ濡れになりながらの終了のホイッスルでしたが、逆にそこまで応援した甲斐のある試合となりました。
豊田:極論すれば、それはラスト5分間だけがサポーターとイレブンが気持ちを共有できた時間、ということなのでしょうか(苦笑)。でもまあ、梅崎はあの場面でよくぞシュートを決めてくれました。私たち皆の思いが乗り移った感じ。
椛沢:悪い内容ながら結果が出たことで、悪い部分が先送りされるのではないかという声も確かに聞こえますが、私はその心配はないと思います。サポーターの間でも「内容は決して良いものではなかった」と冷静な意見を数多く聞けましたし、その中での喜びということですから、この結果がチームを更にステップアップさせる自信になるのではないかと思っています。次は首位仙台との対戦です。勝てば2差に迫る重要な一戦。ホーム埼玉スタジアムに多くのサポーターが乗り込み、レッズの勝利を呼び込みましょう。