「レッズ2012月刊ライブディスカッション」Vol.7
レッズ密着取材を続ける河合貴子氏に、本誌・椛沢編集長が浦和レッズの現状や選手達の思いを毎月訊く「レッズ2012月刊ライブディスカッション」。最下位札幌、優勝を争う仙台、伏兵川崎に敗れ、終盤戦に向けて失速気味の浦和レッズ。しかし首位広島には勝利し、アジアチャンピオンズリーグ出場の可能性を残っている浦和レッズの現状について。なぜ失速したのか?ミシャ采配についての是非など、お話をお訊きしました。(浦和フットボール通信編集部)
終盤戦の失速の要因は何か?
椛沢:札幌戦、仙台戦、川崎戦に敗れて、終盤戦に向けて失速傾向です。
河合:失速の要員のひとつは、決定的チャンスは確かに作っているけれども、点が獲れないこと。
椛沢:仙台、川崎は2得点ずつしているので、得点を取れていないわけではないんですよね。
河合:点を獲る時間帯の問題がある。川崎戦は立ち上がり良い時間帯に点を獲ったけれども、レナトの事故のようなFKを2発決められた。壁の状態はどうだったのか、ファールを与えなければ良かったのか、色々と考えてしまった。
椛沢:レナトのFKは蹴られた瞬間に負けだった。防ぎようがなかった。特に2回目は、蹴らしちゃいけなかったと思います。ここまで失速しているのは疲れの影響もあるのでしょうか?特に前線の選手、柏木、マルシオに疲労が見えて攻撃力が低下しているような気もします。
河合:疲れは関係ないと思う。確かに、柏木の場合はずっと足に違和感をもったままプレーをしていた状況。試合が終われば別メニュー、次の試合に向けての調整をして、それからチーム合流をして試合を迎えている。川崎戦の前もずっと別メニュー調整で、前日も「マジやばい」と本人が言っていて、ミシャ監督も「当日になってみないとわからない」という状況だったけれども、柏木自らが起用をしてくれと直訴をして試合に出た。それだけ彼は試合に賭けていた。あの足が痛い中、あの良いパフォーマンスは見せてくれたと思う。椛沢:そうなると失速の要因はどこにあると思いますか。
河合:ひとつに引かれた相手を崩しきれないこと。さらに相手に先制を許した場合、守備を固められるので、引かれてしまい試合を難しくしているという、試合展開の悪さも失速に繋がっていると思う。だから先制点が必要。追いかける展開になってしまい、相手に引かれた時では、今のレッズではそこを打ち崩す力がない。
椛沢:序盤戦では、先制をされても逆転で勝利した試合もありました。
河合:それはまだ相手もレッズを研究しきれていなかったこともあるんじゃないかな。
終盤戦では、向こうにリードを許したが為に前に行き過ぎてしまって、そこを突かれてしまった。終盤になって「優勝」という甘い文字も見えてきて、そのプレッシャーもあったと思う。選手の動きが硬かったところがあったのは、ミシャ監督も言っていました。
椛沢:「優勝」が見えた途端に勝てなくなりました。優勝を経験している選手がいる中でも力を発揮できなかった。経験をしている選手は、守備の選手が多く裏方の人というところもあるのかもしれないですね。
河合:メンタル的な弱さは見えたのは事実。そこは難いところだね。坪井も啓太も平川も良くやっていると思う。そう考えると、失速したのは優勝のプレッシャーで負けられないということと、勝たなければいけないというプレッシャーで動きが硬くなったということ、リードを許してしまう試合が多く、試合展開が悪かったということですね。相手にも研究をされてきて、しっかり守られてカウンターを食らってしまった。札幌戦もまさにその展開でした。
椛沢:シーズンの序盤は、前半に勢いをもって点を取って、後半にダラっとしてしまうのが問題だと言っていたけれども、今は先制をされて、追いかける逆の展開になってしまいました。
河合:その意味もあって、基本を忘れずに、しっかり守って守備ありきから先制点を奪って、自分たちのことを取り戻そうということをしたのが、川崎戦だったんですけどね……。
椛沢:硬かった守備も破綻してきて、失点が増えてきています。
河合:レナトのFKは別だけれども、失点は、点を奪いに行く時に裏をつかれている。札幌戦もカウンターだったし、仙台戦も常に追いかけている展開の中で、リスクを負って前に行こうとしてチャンスも作れているけれども決められずに、失点をしてしまった。
椛沢;マルシオが終盤戦にブレーキをかけているのも大きい。序盤は彼がゴールを幾度も決めて勝利をしてきましたけど、後半は彼が外してしまったことが、結果につながっています。
河合:マルシオも足の状態が完璧とはいえない。常に練習が終わった後にアイシングをしている。正直、どこのチームの選手もそのような状態ではあるんですけどね。
椛沢:前線の選手の疲労が見えてきている部分はありますよね。元気はまた違う状況ではありますけど……。
河合:元気は暗いトンネルの中にもぐりこんでしまった。それでも自分でなんとかしなければと空回りしたところがあると思う。
川崎戦で交代枠2枠は使って欲しかった。
椛沢:交代選手の起用がほとんど見られない状況です。ミシャは、シーズン中ほとんどメンバーを固定してきました。それは固定した方が、戦術浸透が早いからということもあると思います。このトークライブでも、疲れた時に新たな選手が出てこないと厳しいという話もしていましたが、まさにその展開になってきた。その準備をしていないから、今選手を使おうと思っても、育てて来られなかったことが響いているのではないか。それだけの余裕はなかったということもあると思いますけど、試合に使っていなかった選手が、突然出てきて活躍が出来るのかという疑問はあります。
河合:練習では同じことをやっている!ただAチームとBチームと分かれているので、Bチームの連携でやればすごく良いと思う(苦笑)。誰が出ても同じことができるような戦術浸透という意味での準備はしてきたけれども、Aチーム、Bチームで分けてきてやってきた中では試合の中でのイマジネーションの共有はなされてきていないと思う。だから、全くやってこなかったわけではないと思うけどね。
川崎戦後の監督会見で、「絶対勝たないといけない試合で、なぜ交代枠を2枠残したのか?」と質問をしたんですね。そうしたらミシャ監督は「選手を代えて得点を取れる確信があれば、そうするけれども、流れがすごく良かったし、選手のパフォーマンスも良かった」と答えてくれた。それは認めるんだけども、なにがなんでも勝つんだというメッセージを込めて交代して欲しかった。柏戦のように途中から出てきたポポが点を獲るということもあった私としては、ゲームの流れが良くても選手交代をして欲しい。流れを変えたくないという考えもすごく分かる。1点差で負けている時に残り10分でも良いから1点を獲りに行くために、フレッシュな選手を入れると動きを活性化してくれる。川崎戦では、残り2枠使って欲しかった。
椛沢:あの展開の中で交代枠を使わないということは、ミシャの考える戦力が足りないのかなと思ってしまいました。
河合:ミシャ監督はあの良い流れを変えたくなかった。良い流れの中でチャンスが生まれていた。取材ノートを見ても、後半はほとんどレッズのチャンスだったんだよね。
椛沢:攻撃のバリエーションとか引かれた相手の攻略方法は増えてきていると思う。そこが決めきれないのは決定的なFWの存在が不足しているから。それは多くの方が思っていることだと思います。ワシントンがいたら、何試合勝っているんだろうとサポーターは冗談話をすることがあります(笑)。
河合:確かに!ワシントンがいたらポストプレーはできるし、ゴールも決められる。ただ前からプレスをかけろと言うけどね。
椛沢:それでもやらないでしょうけどね(苦笑)。
河合:そうでなければ使わないよ!という。現代サッカーでは前からのプレスをしない選手はあり得ない。世界を見ても規律があって、行く時と行かない時を明確に分けている。始終行けと言っているわけではない。
河合:ここまで、やっている方向は間違っていないと思う。
椛沢:目指している方向を貫き過ぎているために、無理やりにでも勝とうということはなんじゃないかと思ってしまう。それが、サポーター的には勝つ気があるのかよというふうに見えてしまう部分もあります。
河合:結局はその選択なんだよね。この流れのまま行って点を取って逆転をするということと、フレッシュな選手を入れて、なにがなんでも点を取って勝つというメッセージを込めて選手交代をする。ミシャ監督は前者で、この良い流れを崩したくないから、良い流れの中で逆転をするという選択だった。選手を代えて万が一、流れが悪くなってしまうこともある。でも、私だったらまず、坪井を削ってでもポポを入れたかもしれない。その代わりにカウンターが怖いから、必ず高い位置でプレスはかける。そしてシュートで必ず終われと指示をした。攻めが終わった所ではブロックをしっかり敷いて守る。
椛沢:無理やり勝つということよりは、ミシャは自分たちのサッカーを貫いて勝つというタイプの監督だとは思います。サポーター的にはポポを入れて勝とうとしてくれた方がチームは勝つことは目指したと感じることが出来ると思います。柏戦は交代で入った矢島とポポが活躍をして良い流れがきたと思った。あのような試合の方がサポーター心としてはぐっときてしまう(笑)試合は良かったけど負けてしまったという終わり方はして欲しくない。サポーターにも交代してくれた方がメッセージは伝わりやすいんですよね。
河合:それの方が伝わりやすいよね。ミシャさんの交代を使わないで、このままで勝ちに行くんだという思いはスタンドにも私にも、あとから考えればわかるけれども、あの場では全く思えなかった。残り3試合、勝負の時は絶対に来るか、違った博打を打って欲しい。メッセージを込めた選手交代。達也も試合に出たくて、出たくてうずうずしている。それで達也が出てきて結果を出したら、勢いが出る。岡野選手以来の流れを変えてくれる選手だと思う。
椛沢:選手交代をしてくれて負ければやれることやったからしょうがないと思えると思うんですけどね。
河合:浦和ってそういう人種だよね(笑)。だから、私もそういう人種になっちゃったんだよ。石橋叩いて渡らないんだよ。行け!行け!と言ってしまう(苦笑)。あの勝てない時代に「1点取られたら2点取り返せば良い。2点取られたら3点取れば良い。それがサッカーだ。先制されたら取り返せば良いんだ」と全然勝てない当時、森孝慈さんはそんなことを言っていた。そうして前に前に行ってボコボコにされた。
椛沢:その姿勢がサポーターも応援しようという気持ちにさせられたのかもしれないですね。勝負して頑張ったんだから、次は勝とうぜという話になった。
河合:そのDNAが一番、最初にあった。そこが浦和の原点なんだと思う。
椛沢:勝つ姿勢を持ち続けて欲しい。どんな試合でも諦めない姿勢を最後まで見せて欲しいということは今でもサポーターは持っていますよね。
河合:私の中に根付いている、浦和のDNAは、森孝慈の姿勢なのかもしれない。浦和って弱いな、お荷物と言われても次は点を取って勝つんだという思いがあった。その時代を知っているからこそなのかもしれない。だから川崎戦では、あと2点を取るために残り2枠を使って欲しかった。確かに、よく考えれば監督なりの勝負があったんだと思う。ミシャ監督は実直で堅実な監督なんだよね。それはレッズには必要な部分だったのも事実。でも、最後のところで思い切った采配をして、ACLへの道を選手の託して欲しい。
最後はなにより結果が欲しい。
椛沢:なにより結果が欲しい。いくら良いサッカーをしても結果が残らないと評価をされない部分もあります。そうするとどんな形を使ってでも勝つしかないと思うのだけれども、監督の理想としてはそういうものではないのかなという気もする。
河合:負ければ監督の責任だからね。フィギュアスケートと違って芸術点はないからね。
どんな形でも勝つという意味で、ミシャさんが選んだのは、良い流れのまま勝つということ。それが一番勝つ確率が高いと思ったんだと思う。私みたいなのが監督だと、博打を打ってしまう。博打を打たない時もあると思うんだけどね、それは言いたい。リーグ戦は36試合の積み重ね。ここにきてバタバタするのもどうかと思う。
椛沢:結果だけを見ると、勝ち点は積み重なっていないわけですが、チームの成長度合いは上がっているでしょうか?
河合:そこは上がっている。それは間違いないと思う。攻撃のバリエーションが増えた。出た課題、修正も少しずつ行っている。CKからの失点が多かったのがなくなった。去年、J2に落ちるかもしれないと言っていたチームが、ACLに行けるかもしれないという状況を考えればすごいこと。
椛沢:それだけに2002年のような、負け続けてシーズンが終わるという終わり方にはなって欲しくない。せっかく良い仕事をしてきたのに、評価を下げてしまうことになる。3位以内は死守して欲しい。7位、8位になると、どうなんだろうと思う人が出てきてしまう。そのために勝ちにこだわって欲しい。
河合:私もなって欲しくないね。ミシャ監督は勝ちにこだわってはいるんだよ。その部分はすごい。勝ちに対する彼なりのこだわり方。取材でそばにいて、それはすごく感じます。
首位・広島に対して、大きな勝利。
※広島戦後、追加取材をしました。
椛沢:広島戦は、攻めの博打をうってくれて勝利をしました。久しぶりのホームゲームで
ミシャ監督も「4万人以上サポーターが入る中で、リスクを負ってでも面白い試合をしたかった」とコメントをしていました。みんな満足いったゲームができました。
河合:広島のやり方が分かっていたから前からプレスをかけていこうということになり、それがはまったのかなと思う。ミシャさんのやりたいことが出来た試合だったんじゃないかな。監督も「守備が良かった。前からボールを取りに行って、それが今日のポイントだった」とコメントしています。宇賀神もミキッチに対してやられた所もあるけれども、よく対応をしてくれた。相手のストロングポイントもうまく潰すことが出来た。広島戦に勝利しただけに、札幌戦、仙台戦、川崎戦に負けたことが悔やまれるよね。出来るチームだと思えた。ただ、ここで気を抜くと同じことの二の舞になって、ACLの出場権を獲れなくなるから、気を抜かずにやってほしい。鳥栖は良いチームだし、最後は名古屋とACLをかけた対決になる。闘莉王は燃えてくるだろうからね。広島戦の流れをしっかりつなげていくサッカーをしないとダメ。最初の頃は5バックになったりしていたけれども、今は5バックになる時もあっても、高い位置でコースを限定したりもしている。相手のプレーを潰して、奪った後の早い攻め。早い攻めができなかったら相手をおびき寄せてゆっくりプレーが出来る。そのようなことをしながら、焦らずやれている。それを崩さないこと。
椛沢:前に行く時と引く時の両方ができると戦術としての幅も出てくると思いますよね。
河合:今までは、引かれた相手に対して、苦戦をしていたけれども、そこをうまく隙をつける動きができるようになってきた。梅崎の先制点の場面、元気がニアで潰れてくれたからチャンスが出来た。元気も自分がゴールを決めたい気持ちもあるけれども、その前にチームプレーに徹してくれた。元気がわがままなプレーをしたら、あのゴールはなかった。みんな辛抱強くなった。それは成長の証なのかもしれないね。広島戦は本当によかった。大きい一勝だと思う。
椛沢:田中達也は今季での退団が発表されて、あと1点決めたいと言っているみたいですね。彼が決めると盛り上がります。
河合:決めてほしいね。もう一回、赤いユニフォームでのあのパフォーマンスを見たいね。達也への思いは「レッズ魂ここにあり」のコラムに書きますので、そちらをご覧下さい。
(2012年1月浦和にて)