特別対談:町田隆治×吉野弘一(1)
レッズのジュニア年代へのアプローチが本格化している。本誌WEBで既報の通り、レッズアカデミーと地元指導者が連携して地元少年団の選抜メンバーを育成するジュニアアカデミープログラムも始動から2年目を迎えた。半世紀近くの伝統を誇る浦和地区のサッカー少年団とレッズの交流は、URAWAの支持者が注視を続けてきたテーマ。そこにはどんな未来設計があるのか。おなじみのFC浦和指揮官・町田隆治監督と、山田直輝や矢島慎也らの才能をレッズに送り込んだ吉野弘一監督(北浦和少年団)に訊いた。 浦和フットボール通信編集部
吉野弘一(よしの・ひろかず) プロフィール 1955年、旧浦和市北浦和生まれ。日本サッカー協会C級コーチ。北浦和サッカー少年団の監督を20年以上務めるほか、フガルサッカークラブ代表、東京成 徳中学男子サッカー部 テクニカルアドバイザー、エルマンダーFC(茨城)テクニカルアドバイザー、浦和コスモス(ママさん)監督、ボカ・ジャパン テ クニカルアドバイザー、GRAMADO SOCCERSCHOOL 浦和校 テクニカルアドバイザーと数多くの指導にあたり、全国各地の小・中・高校生を対象に、サッ カースクール及び講演活動も行っている。 著書に『フリーサッカーで世界をめざせ!―いつでもどこでもだれとでも』宮崎昇作・吉野弘一などがある。 町田隆治(まちだ・たかはる) プロフィール 1964年、旧浦和市生まれ。日大豊山高校、本太クラブ(埼玉県社会人リーグ)でFWとして活躍。浦和別所サッカー少年団、浦和トレセン、埼玉県南部トレセン、FC浦和コーチを歴任後、 2008年にFC浦和監督に就任し、同チームを6年ぶり4回目の全国制覇に導いた。現在は、さいたま市南部サッカー少年団指導者協議会 技術委員会副委員長、 浦和別所サッカー少年団ではヘッドコーチを務める。日本サッカー協会公認C級コーチ。
【レッズジュニアの発足は、少年団との結束の契機】
UF:浦和レッズ・橋本代表の「浦和への原点回帰」のスローガンは、このテーマを外しては語れないと思います。地元サッカーを象徴する浦和エリアのサッカー少年団とレッズアカデミーの交流。それは、URAWAのサッカー好きにとって待望久しい課題でした。
吉野:各団には創立以来のそれぞれの経緯があり、プロのアカデミー組織とは足並みを揃えにくい事情や背景もあった。しかしレッズにジュニアが創設されるこのタイミングは互いの立場を再確認し、現状での連携を考えるチャンスです。地元とレッズが新たな関係を築く契機になればと考えています。
UF:一方、町田さんとお話してきたテーマは、地元少年たちの目標であるFC浦和の意義。そして、そのトップレベルを支える幅広い層のサッカー熱が伝承されてきたホーム浦和の潜在能力です。
町田:お二人のお話通り、この街には古くからのフットボールに対するこだわりがあり、しかも36の少年団がそれぞれ高い意識で「自らの存在意義」を受継いできた経緯があります。レッズアカデミーとの調和を目ざすには、むしろ準備期間も必要だったということではないでしょうか。クラブサイドもその情況を把握した上で、適切な対応を始めてくれている。そのように認識しています。
UF:本誌が取材した町田さんら地元指導者と矢作典史センター長以下、レッズアカデミーのメンバーによるジュニア・アカデミーの取り組みはファンの注目が集まるところです。
<編集部注:『浦和フットボール通信WEB』参照(https://www.urawa-football.com/post/7097/)>
このような連携のスタートや計画を聞くと、ついつい将来的なクラブとの結束への期待にまで気持ちが動いてしまうのですが……。これは浦和36団ばかりではなく中体連、高体連の関係者の間からも聞こえるのですが「レッズで活躍する選手を育てたい気持ちは持っているが、その思いを共有する場がない」という声があります。浦和の街からJリーガー、なかんずく浦和レッズのプレーヤーを育てたいという思いは、ホームタウンの随所にあるということなのだと思います。吉野さん、各少年団の現場として発展的にこの取り組みに応えるにはハードルもあるでしょうか?
吉野:かつてこの誌面でお話した通り、浦和エリアの各団はいずこも満杯のスケジュールをこなしています。指導者や父兄の方々の協力を仰いで進行してはいますが、トレーニングはもちろん各種の大会や合宿、遠征などで毎週の予定が次々と埋まってしまう状態に変わりはありません。
UF:そこはポイントですよね。URAWAの伝統を継承するサッカー少年団36団の主目的は、あくまでも「フットボールを通じての青少年の身体と心の育成」。いかに地元プロクラブとはいえ、レッズのための育成機関として存在するのではない……。
吉野:はい。その理念においてトップレベルの才能発掘にばかり目を向けていられないという原則があります。ただ、これはURAWAの指導者たちの意向を推察しての意見なのですが……ご指摘の通り、私たちにも自分が育てた才能をレッズのトップチームに送り込みたいという気持ちは当然に強くある。仮定の話ですけど、もしも浦和レッズが「我々は将来的にこういうサッカーを目ざす。その指針に合う育成に協力して欲しい」といった指針を取りまとめてくださればね……それはもうモチベーション高く、喜んで育成に励む少年団やコーチ、先生方は将来的にも出てくると思います(笑)。
UF:山田直輝君や矢島慎也君を育てた吉野さんのコメントとなれば、そこには期待も膨らみます。ただ浦和レッズは、トップチームにおいても「目ざすサッカー」がなかなか定まらないという歴史を抱えてきた訳で……(苦笑)。まずはそこを鮮明に打ち出してもらうことが必要ということと思います。では町田さんに伺います。浦和の少年団36団は8ブロックから形成され、ブロック毎の定期的なミーティングも開催されているとのこと。そのような機会を活かすことを想定しながらレッズとのコネクションも模索できるのでは?と考えるのですが、いかがでしょう。
町田:公式サイトでも発表されたのでお話します。クラブサイドのジュニア創設が告知されたのが8月1日だったのですが、実はその前段で浦和の指導者協議会すなわち浦和36団に向けて、橋本代表らの幹部同席の上で矢作センター長から直接に連絡をいただく機会がありまして。
UF:そういう部分は従来までの少年団との経緯に配慮してのことでしょうね。
町田:そう思います。まずは浦和の協議会としての活動ですが、今年もFC浦和が結成され、全国大会は無理としてもプライベートの各種大会には出場もしています。この少年団の選抜チームであるFC浦和とレッズジュニアの共存はどうするのかという問題に関し、まだ長期的な意味での回答は出ていません。色々な意見がある中で、たとえレッズジュニアができてもFC浦和は作った方が良いという周囲の声もあります。選抜軍という存在はどうなのか?という見解がある一方で、多くの才能が育っている浦和エリアの子たちが全国レベルを体験する機会をなくしてはいけない、という趣旨ということですね。また、活動の現場においては指導者高齢化の問題があります。レッズさんと協同の活動をスタートするにしても、どれだけの人員がそこに携われるかを考えなくてはなりません。
吉野:36団の活動はスケジュールだけで本当に大変。町田さんご指摘の通り、各団の指導者の方々は私も含めてベテランぞろい(苦笑)。どうやって若い世代を見つけてくるのかという課題を延々と抱えたままです。その環境から変えて、指導者自体も自分の育成の周辺を見直し、外のサッカーを見る時間も作れれば良いと思う。そこにレッズの交流とかが含まれれば良いのですが、今は自分たちのチームを育てる余裕もなく、試合に追われているのが現状と思います
UF:例えばレッズのアカデミーの然るべき責任者が、「レッズのサッカーはこういうサッカーを目指す」「育成年代ではこのようなレベルまで到達する」「ジュニア年代ではそこに繋げるためにこういうステップを踏んでやっていきたい」等々を発声するオリエンテイリングを定期的にやってくれれば、少年団や中体連の中にはそれに対応した指導を目指すモチベーションを持った指導者も現われるのでは?
吉野:その意味でレッズがジュニアを作るこの機会に、指導者の次世代育成という部分も改善されるきっかけになってくれればと思います。現状の周辺環境のままレッズジュニアを始動させても、従来の36団とは関連が薄い存在になってしまうでしょう。浦和は浦和の中でレッズジュニアと切磋琢磨できる土壌を作り、それが刺激になってくれることが理想です。実際にレッズジュニアに少年団が挑戦する戦う舞台が設定されるような舞台があれば、モチベーションも生まれると思うので。
UF:以前吉野さんは、レッズジュニアに北浦和少年団で挑戦してみたいという話もされていましたね。
吉野:指導者も欲を出さないといけないということです。教え子をレッズジュニアに送り込むだけじゃなくて、自分も育成法を練ってレッズジュニアを倒す指導を模索して欲しい。県外にもいっぱい実力チームはあるので、そのような所とも対戦機会を増やしたいです。良い才能と良い才能は、良いゲームで競わせてあげないと。
UF:そういう選手・指導者ともにステップアップの場がホーム浦和発で作られれば理想と思います。
吉野:例えば代表でも活躍している清武君(弘嗣)を輩出した少年団には新庄先生という名物先生がいます。四国には人口が2、3万の町からJリーガーが5名も6名も出ている町もあります。そこにはどんなサッカーがあるのか。どんな指導が行なわれているのか。見に行ったり研究する機会があっても良いと思いますね。サッカーの街という割には、いまの浦和にはそういうチャンスが少ない。例えばクラブと協議会が協力体制を作り、全国大会研修ツアーとか、レッズのアウェイゲームにあわせてバス一台で試合を見に行きながらその地域に視察に行くとか、地元でもレッズの試合後に会議室で色々な戦評会をやってみるとか……そんな機会もあったらなと思います。矢作センター長は少年育成に関しては日本最大のクーバー・コーチングのトップで経験を積まれた方。そこでの経験談やエピソードをお聞きするだけでも意義は深いのではないでしょうか。
UF:町田さんに伺います。例えば同じホームタウンの中とはいえ、お二人のようにレッズとのパイプを持つような影響力を持つ人材はごく限られています。多くの有志の指導者たちにレッズアカデミーとの接点を提供するトーナメント大会や勉強会等を、レッズの呼びかけで開催してもらう……などという流れは。
町田: 浦和トレセン大会(Jの下部組織を中心に招待。FC浦和を始めとした地元選抜チームを集めた12チームでのワンデートーナメント大会)がその原型に該当すると思います。7月の第1週で去年から始めたのですが、いずれも成功裡に終わっています。来年にはそこにレッズのジュニアを呼ぶつもり。ただご指摘の通り、レッズさんの主催大会でやっていただきたい意向はありますね。終わった後は指導者との懇親会とか……。実は矢作さんには浦和36団の指導者を集めて、指導者講習会をやってもらえないかという要請はすでに投げかけているんです。ただお互いなかなか時間がない(苦笑)。実現していないのだが、こういう企画は前向きに進めて行きたいと思います。
(後編に続く)